2025/01/11 13:17
硝子の花瓶が割れて、花たちは散り散りになり、花瓶は元の形を失い、水は床に小さな水溜まりを作った。さっきまで、完全な美しさを醸し出していた花瓶に生けられた花たちは、確かに、色とりどりに調和した旋律を歌っていた。赤、ピンク、橙、黄、緑、青い花はブルースター。祈っているみたいに佇んでいる。
僕は、自らの命を捨てる代わりに、花瓶を床に落として破損させるという行為をした。そうでもしないと、生きるのを諦めそうだった。
鋭利に割れた硝子の破片を拾い、手で握りしめてみた。手のひらに痛みが広がり、赤い血液がポタポタと花と花瓶と水溜まりに脈打つリズムで落ちていった。「美しい」と僕は思わず口に出していた。そんな言葉を発した自分に少し驚いた。
赤い血はインクを水に溶かしたように、流動的な模様を作り、花に当たった血は、淡い死の匂いを放って、より生き生きと蠢いている命を感じさせた。硝子を握りしめた拳は、痛くとも心地良く、生きているということ、生かされている、ということを実感できた。
それから、命を諦めたくなる衝動に駆られる度に、僕は美しさを放つ物質を破損するということを繰り返すようになった。真珠のピアスの真珠部分をペンチで歪ませる、柘植の櫛を折る、買ってきたばかりの薔薇の花にライターで火を点けて燃やす。人に迷惑をかけない範囲でやるのが一応のルールだ。
美しいと思ったものを破損させる、それは、僕の性質の癖だ。いずれ人にその傾向が向いて、危害を及ぼすことを。自分の中の怪物に、怯えている。
